7時41分 大多羅発 岡山行き

7時41分 大多羅発 岡山行き
赤穂線にゆられ私は3年間高校に通った。
多少の入れ変わりはあっても無人駅の
一つしかないホームは毎朝大体同じメンバー。
本数の少ない電車の中もしかり。

東京に引越し
渋谷スクランブル交差点を渡りながら
人の群の中を進んで行く時
私は大多数の1人になったんだっと思った。
夜のニュースで一瞬映る屋上カメラから見たあの1人。
明日にはそこに映らないであろう1人。

最近岡山に戻った時
あの7時41分発の電車に乗っていた
名前も知らないサラリーマンが
電車から降りてくるのを見かけた。
「この人はまだ仕事に行ってるんだ」
と疑問なくふと思った。
その瞬間、自分がワタナベトシエであった
ことに気づく。

私は私だった。
いままでずっと一番近くにいた
自分を忘れそうになってた。
多くの人に会いすぎて
多くの言葉にまみれすぎて
目も心も奪われそうになって
忘れていた。
自分に一番近い私のこと。

「人は自分を映す鏡」
と言うけれど、東京の街には鏡があまりにも
あふれすぎていたんだな。

私を映す鏡を自分の中に
少しだけでも持てたら。
ぶれない芯を持てたなら。

たくさんの人の中にいて
様々な種類の鏡に映されても
同じ様に映ることができるだろう。